造形世界における連弾
安藤裕美 梅津庸一
2025.03.21-04.07 開催終了
- 展示
- 3月21日〜4月7日(12時〜17時)
- レセプション
- 3月20日(18時30分〜20時)
梅津庸一と安藤裕美は共にアートコレクティブ「パープルーム」で活動してきた。それも10年という長い期間にわたって。梅津はパープルームの主宰者であり、安藤はその中心的メンバーである。しかし意外なことに梅津と安藤の2人展は今回が初だという。
ところでパープルームの活動の実態を知っている人はどれだけいるだろうか。YouTubeチャンネル「パープルームTV」や安藤が手がける「パープルームのまんが」などによってその一端を垣間見ることはできるが、パープルームとはいったいなんなのか?
パープルームは2013年に生まれ美術の教育制度への批判論評、そして私塾パープルーム予備校の運営が活動の中心をなしてきた。またSNSを駆使してメンバー間のやりとりを可視化させ「学園ドラマ」を演劇さながらに展開することで、これまでアート界に参画することのなかった層を積極的に呼び込んだ。
結成から数年間は地方の雑居ビルや美術館、ギャラリーなど様々な場所で展覧会を開催し、メンバーが会場に寝泊まりするキャラバン的な活動が目立っていた。梅津はこの時期を「前衛美術家集団のコスプレ」であったと振り返っている。ナビ派、青騎士、ゼロ次元、実験工房、月映、具体美術協会といった国内外のグループの精神を憑依させ運動体としてのパープルームを駆動させる原動力としていた。しかし、そこには多分に「傾向と対策」の意識が働いていただろう。
2019年からは活動拠点であった相模原のアパートの1階に、パープルームギャラリーをオープン。コロナ禍の影響で苦戦を強いられていた2軒隣のみどり寿司との連携は美術と飲食店の継続的なコラボレーションとして定着し相模原の街に馴染んでいた。また、この頃からYouTubeでの発信が活発化し動画の時代のニーズに対応していく。とはいえ、日本のアート界におけるコレクティブの時代は終焉をむかえつつあり、パープルームの集団的活動は孤立を深めていった。2021年の春、梅津はそんな状況下での運営に限界を感じ急遽、信楽で単身、作陶をはじめる。
信楽での経験は産業としてのものづくりの構造、そして美術史や美術批評に依拠しない活動の可能性を梅津にもたらした。パープルームの細々と続く活動と並行して陶芸、版画といった工房での仕事に軸足を移していった。
昨年12月には相模原の活動拠点が老朽化により立ち退きを余儀なくされた。それに伴いパープルームギャラリーもひとまず閉廊。現在はパープルームの次なる活動のための充電期間である。
本展「造形世界における連弾」はそんななか開催される展覧会である。パープルームの主要な活動を担ってきた梅津と安藤の協働にフォーカスする本展はそれぞれが作品を持ち寄るたんなる2人展ではない。梅津と安藤はパープルーム展などで幾度となく一緒に展示してきたが、今回はパープルームの関係性や人間ドラマではなく、パープルームが培ってきた造形言語の最新形をギャラリーの展示空間でその場で立ち上げてみようという試みである。梅津が作陶を介して得た造形言語はドローイングや壁画に流用される。安藤は最近A/D GALLERYで開催された個展「ものをつくる人々」に出展された絵画に見られるように、人々がものをつくる様子をドキュメントとして画面に定着させるが、対象の物理的な現象までも変奏して「描き」に取り入れている。
この展覧会は梅津と安藤が大阪でスパイスカレー屋めぐりをしている最中に発見したという心斎橋のGALLERY UROが舞台である。本展が移転前、最後の展覧会というのも何かの縁かもしれない。
安藤 裕美
1994年 東京生まれ
19歳の時にパープルームにやってきた。
梅津が企画した2014年から2018年までの「パープルーム大学」と名を冠した展覧会すべてに参加。
身近にいる作家の制作する様子や、展覧会が作られる様子などを油彩、水彩、まんが、アニメ、銅版画を駆使して描く。
現在はパープルームTVの撮影・編集なども担当している。
主な個展
- 2024
- 「ものをつくる人々」A/D GALLERY、東京
- 2023
- 「学舎での10年をめぐって『ナビ派』と『パープルーム』への眼差し」パープルームギャラリー、神奈川
- 2020
- 「光のサイコロジー」オン・サンデーズ、東京
梅津 庸一
1982年 山形生まれ
美術にかぎらずヴィジュアル系、オーセンティックバーなどはまったものは脳内でマッピングができるまで探求しないと気が済まない。凝り性。またパープルームの数十回に及ぶ展覧会すべてのキュレーションを手掛けるなどエキシビション メーカーでもある。
主な論考
- 2024
- 「ここは東京藝大系および、美大教員系アーティストたちが眠る部屋なのか?」ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?──国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ など
- 2023
- 「陶芸と現代美術『窯業と芸術』を開催するに至るまで──尖端から末端をめぐって」ゲンロン14
主な個展
- 2024
- 「梅津庸一|クリスタルパレス」国立国際美術館 など
- 2021
- 「梅津庸一|ポリネーター」ワタリウム美術館